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津地方裁判所 昭和30年(ワ)101号 判決

主文

被告等は連帯して原告に対し金十万円を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告等の連帯負担とする。

この判決は原告が執行前各被告に対し、各金三万円の保証を供するときは仮に執行することができる。

事実

(省略)

理由

原告と被告山中トシが昭和八年五月八日婚姻し、昭和二十八年四月十六日調停によつて離婚したことは、原告と被告山中トシとの間においては争いのないところであり、被告木戸喜一に対する関係においては成立に争いのない甲第一号証によつて認め得るところである。

証人小西楠松の証言によれば、被告山中トシと被告木戸喜一は昭和二十六年四月頃津市栄町一丁目七番地丹羽タキノ方において、又証人橋本昌三の証言によれば被告両名は昭和二十七年十月頃右同所において、それぞれ情交関係を結んだことが推認でき、又原告本人尋問の結果によれば被告等が昭和二十六年十月十日頃津市丸之内殿町藤田比佐子方において情交関係を結んだことが推認できる。更に又、証人川村まさゑの証言によれば被告等が昭和二十六年頃の十月頃前記藤田比佐子方において情交関係を結んだことが推認できるし、証人和田サダ子(第一、二回)、同和田静子、同小宮静夫の各証言及び証人和田サダ子(第二回)の証言により成立を認め得る甲第十五号証を総合すれば、被告等が津市古河料理店松葉こと和田サダ子方において昭和二十七年九月頃、三、四日間宿泊し、情交関係を結んだことが推認できる。右認定に反する証人丹羽タキノ、同藤田比佐子の各証言及び被告等各本人尋問の結果は、前掲各証拠に対比してたやすく措信し難く、証人中田小夜子、同倉田豊子、同中山儀一の各証言によるも右認定を覆すに足らない。

被告両名が、原告と被告山中トシとの婚姻継続中、前記認定の日時場所以外の機会において情交関係を結んだことは、これを認定するに足る十分の証拠がない。

被告等は前記姦通行為によつて、原告が被告山中トシに対して有する貞操を守るべきことを要求する権利を侵害したものというべきであるから、被告両名は共同不法行為者として、右姦通によつて原告が蒙つた損害を賠償する義務があるものというべく、弁論の全趣旨によれば、原告が右姦通によつて精神上の苦痛を蒙つたことはこれを推測するに難くない。原告は、被告山中トシとの婚姻継続中、既に被告等両名の姦通事実について疑を持つていたが、昭和二十九年八月十九日津地方裁判所における訴外谷川善一の証言を聞くに及んでこれを確信するに至つたと主張するが、仮りにそうであつたとしても、離婚後においては婚姻継続中における妻の不貞行為につき何等痛痒を感じないというものではないから、前記のごとく原告の精神的苦痛を認定することは、何等条理に反すもるのではない。

然らば、被告等は、右姦通行為によつて原告の蒙つた精神上の苦痛を慰藉するに足る慰藉料を、連帯して原告に支払うべき義務があるものであるが、その額について案ずるに、原告が被告山中トシと二十年間に亘つて婚姻生活を継続して来た事実、原告本人尋問の結果によつて認め得る、原告が小学校卒業の学歴を有し、現在旅館業を経営している事実、被告山中トシ本人尋問の結果によつて認め得る、同被告が実科女学校卒業の学歴を有し、現在は実兄山中宗次の経営するタオル工場で働き、収入もさほど多くはない事実、証人山中宗次、同倉田豊子の各証言及び被告山中トシ本人尋問の結果を総合して認め得る、同被告が原告と婚姻中、原告より虐待を受けたことが屡々あつた事実、被告木戸喜一本人尋問の結果によつて認め得る、同被告が中等学校卒業の学歴を有し、本件姦通行為が行われた当時は、製箱業を営み、東邦百貨販売株式会社の専務取締役に就任しおり、又津高等学校PTA会長、津市水防団敬和地区支部長、乙部町総代等の公職についていたこと、そして現在は堺市において店員をしている事実、本件姦通行為がなされた時期、態容等、諸般の事情を総合して考えれば、右慰藉料の額は金十万円を以つて相当と認める。

被告山中トシは、原告も同被告と婚姻中訴外今井光子(現在は小林光子)と情交関係を結び、同被告が妻として原告に対して有する貞操を守ることを要求する権利を侵害したから、原告に対し慰藉料として金五十万円を請求し、これと、本件慰藉料請求権とを対等額において相殺すると主張するが、不法行為によつて生じた損害賠償債権に対しては債務者は相殺を以つて対抗し得ないこと、民法第五百九条の明定するところであるから、同被告の相殺の抗弁は、同被告が原告に対して慰藉料請求権を有するや否やを審案するまでもなく、失当としてこれを採用し難い。

以上の理由により、原告の本訴請求は、被告等に対して連帯して金十万円の支払を求める限度において正当としてこれを認容し、その余の請求は失当としてこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二条但書、第九十三条第一項但書を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を、それぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松本重美 西岡悌次 豊島利夫)

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